法  話
仏事作法

(第1話)阿弥陀様とともに

七月のある日、私はご門徒さんのお宅にお参りをしました。すると五歳になるかずえちゃんという女の子が、「お坊さん、七夕には何をお願いしたの?」と聞いてきました。その質問があまりにも面白かったので、逆にこう聞いてみました。
「お坊さんは願いごとしなかったけれど、かずえちゃんは何か願い事したの?」
  かずえちゃんは私に保育園で書いた七夕飾りの短冊を見せてくれました。
 そこには「プリキュアになりたい」と書かれてありました。プリキュアとは女の子に大変人気のあるテレビアニメで、主人公の女の子がプリキュアという勇気あるヒロインに変身して、意地悪をする者たちと戦うという番組だそうです。

 かずえちゃんのおばあさんは、 「かずえったら、七夕の次の日の朝、目が覚めて、プリキュアになってないって残念がって大泣きしたんですよ」 と笑いながらおっしゃいました。私はかわいい話だなあと思い、何気なく 「どうしてプリキュアになりたいの?」 と聞いてみました。すると、少し声を震わせ「おばあちゃんやお母さんを守るの!」 と答えるのです。
 実は、その時のご法事は、かずえちゃんのお父さんのご法事だったのです。お父さんは一年前、四十歳で亡くなられました。

 かずえちゃんは、こうも話してくれました。
「お父さんがいなくなってからね、お母さんが毎晩泣いてるんだよ。かずえはね、強い子だからね、お母さんを守るんだ!泣いていたらお母さんを抱きしめてあげるんだよ」 隣で聞いていた、かずえちゃんのお母さんは 「かずえちゃんがいてくれて本当に良かった。五歳の我が子に救われるんです。毎晩夫に似ているこの子を抱きしめて寝ます。この子がいなかったらと思うと」 としみじみとおっしゃられました。

 かずえちゃんの「プリキュアになりたい」という願いは「もっと強くなってお母さんを守りたい」という願望の現れだったのでしょう。
かずえちゃんも、お父さんとお別れして悲しいのに、元気に明るくふるまうことで、お母さんやおばあちゃんの悲しみさえも、自分が拭いさろうとしているように感じました。
  かずえちゃんに 「お父さんはどんなお父さんだったの?」 と聞くと、 「お父さんはね。すごく優しかったんだよ。かずえといつも一緒に遊んでくれたよ。お父さんの手は温かかったなぁ」 と嬉しそうに話してくれました。私は胸が一杯で、涙がでそうになりました。
私はお仏壇の前に座り直し、かずえちゃんにこうお話しました。
「かずえちゃんも、ナモアミダブツ、ナモアミダブツと、一緒に阿弥陀様に手を合わせてみて。手を合わせたら温かいよね。阿弥陀様がいつも一緒にいて下さるからだよ。その温かいところに、お父さんも一緒におられるよ」 すると、かずえちゃんは手を合わせて「ナモアミダブツ。ナモアミダブツ」とお念仏をしてくれました。
  かずえちゃんの可愛いお念仏の声を聞いて、お母さんはにっこり笑顔になられました。その場にいたおじいさん、おばあさんにも声は伝わり、かずえちゃんのその姿に涙ぐまれながらも家族皆でご一緒にお念仏されました。

 南無阿弥陀仏のお念仏は、阿弥陀様の「大丈夫ですよ、何も心配はいらないよ。私はあなたといつも一緒にいますよ」というお呼び声であると親鸞聖人はお示し下さいました。

 私たちはどんなに強くありたいと願っても、どうしても強くはいられない時があります。そんな時に阿弥陀様は「強くあれ」とはおっしゃいません。「そのままでいいのですよ。そのままのあなたを救わずにはおられないのです」と、私の所に今もう既に「南無阿弥陀仏」のお念仏として出遇いに来て下さっているのです。人間は、深い悲しみで心が折れ、震えながら涙を流さずにはおれないものであると先に見抜ぬかれておられます。

 かずえちゃんはその後、家族でお寺の法話会にも来られて、人気者です。お家のお仏壇にも手を合わせているそうです。私は、かずえちゃんを通して、阿弥陀様のお慈悲のお心に改めて、出遇わせていただきました。苦しみ悲しみは生きている限りなくなりませんが、阿弥陀様とご一緒の中に、温かいおこころの中にあればこそ、私たちは生きてゆけるのでしょう。